TRONプロジェクト30年の歩み

TRONプロジェクトの30

TRON電脳住宅

「ユビキタス・コンピューティング」の実現が、プロジェクト発足時の1984年からのTRONのゴール。その実現舞台としてもっとも相応しいのは住宅というのも、当初からの考えだった。1989年には竹中工務店などと共同で「TRON電脳住宅」を建設した。当時としては画期的なもので、住宅を構成する設備全てがネットワークにつながり制御可能であった。米ポピュラーサイエンス誌の表紙を飾り、各国から多くの方々が見学に来られた。

トイレでは、後に製品化されるシャワー・トイレや自動化のアイデアを盛り込んだ。さらに血圧計や尿の自動分析装置が組み込まれ、NTTの協力で引いた専用デジタル回線がデータをホームドクターのコンピュータに送る。将来ネットが普及し普通の家庭でも低コストでデータを送れる時代が来ると信じていたからだ。

それを見てくれたらしく、2000年ごろ当時のトヨタ自動車の副社長、後にトヨタホームの会長となる清水哲太氏とお会いしたおり「もういちど電脳住宅を造りませんか」とのオファーにつながる。

電脳住宅でやりきった感はあったが、心残りがあったのは環境問題への対応。環境に対する社会の意識も2000年には大きくなっていた。トヨタ側の車開発で培った先端技術を住宅分野に活かしたいという思いもあり、2005年の万博「愛・地球博」(愛知県長久手市)での披露に向けて共同研究することになる。

実は私は自称建築家でもある。大学生のころ建設会社のプログラム開発を請け負って、必要から独学で構造設計を学び、建築に興味を持った。機会を見つけては建築設計を引き受け、作品もある。そこで電脳住宅では1989年の初代からユビキタス関係だけでなく、建築の基本設計も私が行っている。そしてできたのがトヨタグループの総力を集めた未来住宅「夢の住宅PAPI」。総二階のシンプルな建物に、リサイクルやユニット単位でのリユースまでさまざまなアイデアが盛り込まれていた。

当然インターネットをはじめとして発達したICT技術もこれでもかと使われている。当時はまだスマホはなかったが、その先駆けになるような端末も開発。そのタッチパネルでいつでもどこでも住宅の状況を知ったり制御したりできるようにした。初代の電脳住宅では、高価なコンピュータをたくさん入れたコンピュータルームが地下に隠してあったが、同じことが壁裏に分散配置された小箱で可能になり、89年にはコンセプトだったものが十分実用的になったと感じられた。

ところで、ハイブリッド自動車から住宅に電力を供給するアイデア――非常時には車が発電機となり住宅に電力供給するアイデイアもここで試されたのが最初。私は講演などで海外に行くことも多く、停電や電力不足をあちこちで見ていたからだ。それが奇しくも大震災を経ていまは実用化されている。電脳住宅やPAPIで使われた技術は徐々に住宅に浸透しているのだ。

TRON電脳住宅(初代)
PAPI

TRONWARE VOL.150より再録