TRONプロジェクト30年の歩み

TRONプロジェクトの30

新たな発展をめざして

2000年ごろになるとマイコンはますます進化し、1980年代初頭の大型コンピュータより機能が高くなる。1990年に軍事技術から民間開放されたインターネットも凄い速度で普及。組込みリアルタイムOSの重要性は産業界では当たり前となり日本でのITRONの普及率も6割にまでなった。

そこでネット時代の新しいリアルタイムOSをという要求が高まり、立ち上げたのが「T-Engine」プロジェクトである。80年代の組込みOSは独立した個々の機器のものであったが、洗濯機も電気釜もエアコンもあらゆる組込みシステムがネットにつながる時代が来る。産業機械もすべてネットにつながり、運転データがビッグデータとなり、故障予測や運転の効率化が可能になる。そういう時代のためのプロジェクトだ。

世界的なユビキタスへの関心の高まりとともに、第3セクターであるYRP(横須賀リサーチパーク)の中に産官学共同でユビキタスの専門研究所を創ろうということになり、その研究所長も兼ねることとなった。フランスやフィンランドの情報通信大臣やEUの関係者が見学に来たり、中国、シンガポールなどアジアの多くの国からも見学者が訪れている。

こちらも積極的に世界に出かけ、世界標準の活動にも積極的に参加した。ITU総会で行った私の講演をきっかけとして、私の研究所で開発したユビキタスシステム内での識別コード――ucodeを世界標準化することもできた。また、海外展開のためにトロン協会を発展的に解消し「T-Engineフォーラム」という完全NPOとした。海外の政府系の研究所等も会員となり、いまや200組織を超える会員の半数近くが海外だ。

時代はネットワーク全体で負荷分散を行うようなアーキテクチャを要求し、プロジェクトは電子タグからクラウドサーバまでをつなぐトータルアーキテクチャとなっている。さらに、これを使った応用として食品トレーサビリティや製品トレーサビリティが関心を集めている。例えばベターリビングという業界団体は既に300万個の住宅用火災警報機にucode電子タグをつけ、ジャパン・スタッドブック・インターナショナルは競走馬にucodeを付けて管理している。また、国交省、東京都と協力して銀座を中心に障碍をお持ちの方や高齢者をユビキタス・コンピューティングで援助するプロジェクトも実験段階を終え、オリンピックに向け実用一歩手前まで来ている。

私がトロンプロジェクト当初から構想していたユビキタス・コンピューティング――最近の言葉でいうとIoTとかM2Mが現実のものとなりつつある。

ナタリー・コシュースコ=モリゼ氏(フランス 環境・持続可能開発・運輸住宅大臣)
T-Engineボード
u2アーキテクチャ

TRONWARE VOL.150より再録